大阪高等裁判所 昭和58年(ラ)308号 決定
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【判旨】
当裁判所の判断
一件記録によると、抗告人はもと歩合制のセールスマンとして会社勤務をしていたが、昭和五一年関節リュウマチを患うようになり、収入が減少し、昭和五三年夏頃からいわゆるサラ金業者から借金をするようになつたこと、その後の昭和五五年六月友人と無線電話器販売の新菱工業株式会社を設立したが、翌五六年八月頃から業績が急激に落ち、給料も得られなくなり、サラ金業者からの借金を重ねるようになつたこと、右会社が倒産し、抗告人は昭和五七年三月右会社の債権者である株式会社コーケン(代表者内村源三)に雇傭されたというものの給料所得はなく、同年五月に五万二〇〇〇円、同年六月に七万円の販売手数料を得たに過ぎなかつたこと、抗告人の総債務額は二〇一三万三〇〇〇円(債権者数一三一名)にも達し、同年四月頃にはすでに支払不能の状態となつていたこと、そこで抗告人は同年八月二六日大阪地方裁判所に対し、破産宣告の申立をし、同年九月一七日午前一〇時その宣告と同時に破産廃止の決定を受けたこと、ところで抗告人はこれより先の同年五月三一日株式会社レジャーパートナに金銭借入の申込をなしたが、その審査のために提出を求められた顧客カードに、抗告人は株式会社コーケンに七、八年勤務し、給料手取額四一万円である等と虚偽の記入をして一〇万円の借入れをしたこと、以上の各事実を認めることができる。
ところで右認定事実によると、抗告人は既に支払不能となつた後で、破産宣告のわずか三か月半前の時点において、月収もほとんどない状態であるのに、特定の会社に七、八年勤務し、手取四一万円の月収があるように装い、支払不能の状態にないように装つて、金銭の借入を行つたものというべく、右の事実は破産法三六六条の九第二号に該当するものといわざるを得ない。
もつとも破産者の行為が形式的には同条各号に該当する場合であつても、その事実が軽徴である等特段の事由があるときは、裁判所はその裁量によりなお免責の許可をすることを妨げないと解せられる。
抗告人は収入額を偽り借入の申込をしても、相手がサラ金業者の場合それは貸付実行を判断する重大な要因とはなつていない。もしそれが重大な要因ならば、勤務先会社等に電話で確認するなどして容易に調査することができる。一般にサラ金業者は過剰宣伝をし、信用調査をしないで簡易に無担保で融資をし、苛酷な取立をしている。サラ金業者は他店の肩替りを申し出るようなことまでして融資を競い、借主の負債額も収入額も承知のうえで融資の実行をしあるいは借主に既に多額の負債があることを予想しあるいは支払不能の状態を予想しながら融資を実行し、返済に行詰つた債務者が最終的に法的清算並びに更生の道を求めたときに、その借入を計画的な詐欺というのは、余りにも責任を一方に転嫁するものである。債権者側の右のような事情を無視するのは不公平である旨主張する。
しかし本件についてこれをみるに、株式会社レジャーパートナが抗告人に貸付する際、抗告人の総債務額を知りあるいはこれを推認し、抗告人が支払不能の状態にあることを知つていたものと推認しうる証拠はない。そして、一件記録によれば、同会社は貸付に当り保証人を求めるとともに、同業者調査機関に照会の電話をしており、他方抗告人は給与明細表の提示までしていることが窺われるから、右貸付に当つて同会社に重大な過失があつたともいい難い。
およそ借入申込者が既に支払不能の状態にあることを知りながら、貸主がなお貸付を実行することは、極めて考え難いところといわなければならない。借入申込が金銭借用に当り勤務会社に定着しているか否か、月収額はどの程度であるかは、貸付の実行を判断するに当つて考慮すべき重要な要素というべきである。しかるに抗告人は前記のとおりこれを偽わり、支払不能の状態にないように装つたものといわざるを得ないから、たとえその借入金額の点を考慮しても、抗告人の本件抗告は理由がないといわなければならない。
そして一件記録を調べてみても、他に原決定を取り消さなければならないような違法の点はみあたらない。
したがつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(小林定人 坂上弘 小林茂雄)